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青森地方裁判所 昭和27年(行)10号 判決

原告 米内山義一郎

被告 青森県議会

一、主  文

被告が昭和二十七年三月十五日為した原告を青森県議会議員から除名する旨の議決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因としてつぎのとおり陳述した。

原告が昭和二十六年四月三十日青森県議会議員に当選し、爾来青森県議会議員の地位に在つたものなるところ、原告は昭和二十七年三月十三日、第二十九回定例青森県議会(同月五日招集同月二十九日閉会)において緊急質問を為し、県の計画した人員整理及び地方事務所廃止の不当なことを強調したところ「県の職員組合の請負師だろう」との野次があつたので、原告は「決して県庁職員組合の請負師のつもりで申上げておるのではない」と応酬せるに更に、自由党所属議員の議席から「ほんとうだ」「うまいことを言つてら」との揶揄的な野次が発したので、原告はこれに挑発されて「私は自由党の諸君に申上げておるのではなくて知事さんに申上げておる。私は諸君のように利権が欲しくて県会議員になつて来ておるのではない、土建業者でもなければ馬喰でもない。私はもうすこし真面目に県政というものを考えていきたいために心魂を砕いて申上げておる次第であります」と応酬した。しかしながら原告は野次に対する応酬とはいえ右言辞の不穏当なことを感じたので即日本会議において発言を求め「先程私の発言中私は諸君のように利権漁りでもないし或は土方馬喰でないと申上げました。この内諸君のようにと申上げたことは誠に不適当であつたと、こういうふうに心から考えますのでこの際取消を致し謹んで皆さんの御諒解を得たいと思います」と述べてさきの発言の取消を為した。しかるに同日高樋竹次郎、田中助蔵、四戸徳蔵他四名の議員は、原告のさきの言辞は他の議員を侮辱するもの故原告を地方自治法第百三十二条及び第百三十三条により懲罰に付すべしとの動議を提出し、右動議は討論採決の結果多数を以て可決せられ懲罰特別委員会が設置され、右委員として高樋竹次郎、田中助蔵、四戸徳蔵他七名の議員が議長から指名せられた。右特別委員会は同月十四日、十五日の両日に亘つて審査を為したが、同委員会においては(一)原告を除名すべし、(二)五日間の出席停止を命ずべし、(三)懲罰を科すべからずとの三種の意見に分れたところ委員長は右三種の意見を一括採決に付し、採決の結果除名を可とするもの七票、五日間の出席停止を可とするもの一票、懲罰を科すべからずとするもの一票であつたが、委員長は多数を以て除名を可とする決定があつたものとしその旨同月十五日本会議に報告し、即日右報告について討論採決を行つたが右採決に際して議長は「投票用紙には除名を可とする議員は賛成、否とする議員は反対と御記載願います。なお投票中に白票ある場合は白票を反対の意思の表示と看做します」旨宣言した。而して採決の結果は出席議員四十四名、投票総数四十四票、内賛成と記載した票三十二票、可と記載した票二票、反対と記載した票九票、白票一票であつた、而して右の開票立会議員桜田一義、同杉山勝雄は議長に対し、右「可」と記載した票を賛成投票とすることに異議を述べた。しかるに議長は原告の除名に賛成のもの三十四票、反対のもの十票である旨を告げ、原告の除名が出席議員の四分の三以上の同意を以て可決せられた旨宣した。

しかしながら原告を除名する旨の右議決(以下単に本件除名議決と略称する)にはつぎに述ぶるところの違法がある。

第一、(一)既述の如く原告の前記「私は諸君のように利権が欲しくて県会議員になつて来ておるのではない。云々」の発言は原告の県政に対する真摯な質問演説中揶揄的な野次に挑発され不用意のうちに出でたものであり、従つて右発言は懲罰事犯に該当しない。(二)原告は前述の如く議長の発言取消の命令を俟たず自ら進んで本会議において、さきの発言取消訂正を行つたのであるから最早や懲罰事犯に該当しない。

然るに被告は敢えてこれに対し懲罰議決を為したものと言わなければならない。

第二、仮に前記原告の発言が懲罰事犯に該当するとしても本件除名議決には左の如き手続上の瑕疵がある。

(一)  既述の如く本件懲罰特別委員十名中には懲罰動議の提出者である高樋竹次郎、田中助蔵、四戸徳蔵の三議員が指名せられた。かくの如く訴追する者が同時に弾劾するが如き右委員会の構成は違法なものというべく、従つて該委員会の報告に基いて為された本件除名議決も亦違法な議決であるといわなければならない。

(二)  又懲罰特別委員会の委員長は、同委員会においては多数を以て原告を除名すべしとの決定がなされた旨報告しているけれども、左様な決定は法律上存在していないといわなければならない。蓋し、同委員会においては(一)原告を除名すべし、(二)五日間の出席停止を命ずべし、(三)懲罰を料すべからずとの三種の意見が提出されたのであるから、須らく右三種の意見につき先ず懲罰を科すべきか否かを決し、然る後はじめて出席停止、除名等について順次採決を為すべきに拘らず右委員会はかゝる手続を履むことなく単に右三種の意見を一括採決に付した。かかる採決の方法を以てしては同委員会の意思を決定することは不可能である。従つて前記の如き裁決の結果を得たとしても、これを以て同委員会において多数を以て原告を除名すべしのと意見が可決せられたものと為すことはできない。従つて同委員長の前述の報告は真実の報告とは言い難くかかる報告に基く本件除名議決は明らかに違法である。

(三)  又本件除名議決の採決において議長は「投票用紙には除名を可とする議員は賛成、否とする議員は反対と御記載願います」と宣言し投票の結果賛成と記載したものは三十二票であるに拘らず議長は可と記載した二票をも賛成の票中に加え、賛成の票三十四票と為し出席議員四十四名の四分の三以上を以て原告を除名すべき旨可決せられたと宣した。しかしながら可と記載した二票は前述の議長の宣言に反し無効というべきであり、しかるときは原告の除名を可とするものは三十二票にして出席議員の四分の三に達せず、原告を除名すべしとの議題は否決せられたと言わなければならない。

(四)  仮に右の可と記載した二票が賛成投票として有効であるとしても開票立会議員桜田一義、同杉山勝雄は右二票を賛成投票とすることについて議長に対し異議を述べたのであるから、議長は青森県議会会議規則第百十三条に従つて右二票を賛成投票とすべきか否かについて議場に諮るべきであるにも拘らず、単に議長の専断を以て之を有効なる賛成投票と決したことは同規則違反であり、延いて本件除名議決を違法ならしめるものと言わなければならない。

第三、(一)本件除名議決に存する以上の違法がすべて原告の理由なき主張であるとしても、本件除名議決はその事犯に照し著しく苛酷に失し裁量の限度を越えた違法がある。そもそも議員の除名は議員としての一切の権利を終局的に剥奪するのみならず、当該議員を選挙せる選挙民がその選挙せる議員を通じて自己の意思を表明せんとする機会をも併せ剥奪する結果を招来するものである。従つて当該議員並びに之を選挙せる選挙民に蒙らしめる損失と対比しつつ尚且当該議員を除名しなければ議会の秩序を保持し難い程重大な事犯の生じた場合にしてはじめて議会は当該議員を除名し得るものと言わなければならない。しかるに本件除名議決は原告の真摯なる質問演説に対し既述の如き野卑低劣なる野次が行はれたため之に挑発せられて発言した原告の片言隻句をとらえ、剰え原告が自ら進んで本会議において、之を取消したに拘らず敢えて為されたものであつてその処分は事犯に照し甚しく苛酷であり、裁量の限度を越えたものにして違法なる処分と言わなければならない。

以上の理由により本件除名議決の取消を求めるものである。

(立証省略)

被告訴訟代理人は本案前の答弁として、原告の訴を却下するとの判決を求め、その理由としてつぎの如く陳述した。

第一、本件除名議決は行政事件訴訟特例法第一条に所謂「行政庁の違法な処分」に該当しない。被告青森県議会は行政庁ではない。凡そ行政庁とは国又は普通地方公共団体のようにその本来の性質として意思決定の執行が直接国民の権利義務に影響を及ぼすものを謂う、従つて県議会のように執行機関たる県の意思機関(決議機関)は直接国民の権利義務に影響を及ぼさないのであるからこれを行政庁ということはできない。もつとも県議会がその議員に対して懲罰議決を為すときはこれによつて直接議員に対して公法上の法律効果を及ぼすものではあるけれども、議員は議会の構成員であつて議会と対立して議会の外部関係に立つものではなく、議会の懲罰議決も外部に対し一定の公法上の処分を為す場合には該当しない。行政事件訴訟特例法第一条の「処分」とは所謂「行政処分」の義であつて、即ち国民の権利義務に関係ある行政行為でなくてはならない。議会の議員に対する懲罰処分は単に議員たる特別身分関係についてのみ行はれ、国民の権利義務とは何等の関係のないものである。又議員は本来議会の行う紀律権(懲罰権)に服するものとの前提のもとに議員となつているものであつて、議会が議員に対し法の定める紀律権を行使することは何等議員の自由又は権利を不当に制限し又は侵害するものとはならない。議会の懲罰権の行使は紀律権に基く自律作用であつて行政処分ではない。従つて懲罰議決の関係においても議会は行政庁ではないのである。

第二、県議会が懲罰権行使につきその科すべき懲罰の程度はその本来の性質として議会の自由裁量の範囲に属するものである。従つてその議決については当、不当の問題を生ずることがあつても違法の問題を生ずる余地がない。懲罰権の行使はその性質上多分に政治的、裁量的性格を帯びるものであつて、本来行政訴訟の対象となるには適しないものである。

つぎに被告訴訟代理人は本案の答弁として、請求棄却の判決を求めつぎの如く陳述した。

原告の事実上の主張の中、原告が昭和二十七年三月十三日第二十九定例青森県議会において質問演説中議場から「県の職員組合の請負師だろう」「ほんとうだか」「うまいこと言つてら」との野次があつたとの点、懲罰特別委員会において原告を除名すべしとの決定がなかつたとの点、及び本件除名議決の採決に際して開票立会議員桜田一義、同杉山勝雄から「可」と記載した票を賛成投票中に加えることについて議長に対し異議を述べたとの点はいずれもこれを否認し、その余の事実はすべてこれを認める。而して本件除名議決が違法である旨の原告の法律上の主張はすべてその理由なきものである。即ち

(一)  原告は本件懲罰事犯となつた発言を取消す意味の陳述を本会議で為したのであるから、右事犯は最早や懲罰事犯には該当しないと主張するけれども、この陳述は正規の取消でもなければ又問題の発言を全面的に取消した趣旨のものでもないから取消の効果が発生しなかつたものというべく、従つて懲罰事犯に該当しないとの主張はその理由なきこと明らかである。

(二)  原告は、懲罰特別委員会においては正規の除名の決定が為されていないと主張するけれども、懲罰特別委員会は青森県議会会議規則第百二条の規定により明らかにされているように審査機関であり、本件懲罰についてもこれを審査して議会に報告しているのであつて、その手続において全然瑕疵がない。

(三)  本件除名議決のなされた本会議における除名賛成投票中に「可」と記載した投票を加えたことは不当であつて「可」と記載した投票は無効とすべきである旨の原告の主張についても前記会議規則に照し違法の点はないし、「可」と記載した投票を賛成の票に加えたことは議長が当初投票を求めたときの宣言の趣旨に反するものではない。投票の有効無効については努めて投票者の意思を尊重して決定すべきものであつて「可」と記載せる投票が除名賛成の投票と解すべきものなることは一点の疑もないところである。

(四)  本件除名議決の採決に際して開票立会議員桜田一義、同杉山勝雄から「可」と記載した投票を賛成投票中に加えることについて異議を述べたとの点は被告の否認するところであるが、仮に原告主張の如く異議が述べられたとしても、右の如きは青森県議会会議規則第百十三条の「会議規則の疑義」には該当しないから議長が議会に諮らずに「可」と記載した投票を賛成投票中に加えたことは何等同規則に違反するものではない。

(五)  本件懲罰事犯の対象となつた原告の発言が地方自治法第百三十二条に規定する「無礼の言葉」に該当することは社会通念上一点の疑もないところである。従つて該発言が懲罰に価するとして原告に懲罰を科したことは素より正当である。本件懲罰決議が条理に反する権限濫用であり、若しくは不当であつて権限逸脱の違法処分であることは到底思考し得ないところである。

(六)  仮に本件除名議決が取消された場合は本件につき被告議会は懲罰権を喪失する。蓋し会期不継続の原則により懲罰事件に対する議決は同一会期中に限り為し得べく次の会期にはこれを審議し得ないし、又一事不再議の原則により同一議案についてはこれを再議し得ないからである。従つて除名を苛酷なりとするもそれ以外の懲罰を科する方法は現在においては法的に不能である。故に本件除名議決が取消されるにおいては被告議会は本件に関し懲罰権を否定せられる結果に陥るべく、従つて本件除名議決はこれを取消し得ないものと言はなければならない。

以上により原告の訴は不適法として却下せらるか又はその請求は失当として棄却せらるべきものである。

(立証省略)

三、理  由

第一、

まず被告の本案前の抗弁について考うるに、

一、被告は原告を除名する旨の被告議会の本件議決が行政事件訴訟特例法第一条に規定する「行政庁の処分」に該当せず、従つてその取消を求める本訴は不適法として却下を免れない旨主張するけれども、地方議会の議員の除名議決は、地方議会における通常の議決と異り、直接に当該議員の資格を剥奪する効力を生じ実質上一般行政処分と何等異るところがない、従つて前記除名議決は行政事件訴訟特例法に規定する行政処分に外ならず、その限りにおいて当該議会または行政庁であることは多く言うまでもない。即ち被告の右抗弁はその理由がない。

二、次に被告は地方議会の懲罰権の行使は議会の自律作用に基きある事犯に対し如何なる懲罰を科するかはその議会の自由裁量に属する、従つてその裁量を誤つたとしても当、不当の問題を生ずるに止まり取消訴訟の理由となるべき違法の問題を生ずる余地がない、よつて原告の本訴請求はこの点においても不適法として却下を免れない旨抗弁するけれども、地方議会の議員に対する懲罰権は決して地方議会固有の権利ではなく、これは議場における議員の言動に秩序あらしめ、且議会の品位と権威を維持せんがため地方自治法及び会議規則において規定せられたところに発し、従つて同法に定めた一定の事由ある場合に限り前記目的達成のため必要な限度内においてのみ当該議会が自主的にこれを行使し得るに過ぎない。ただ一定の事犯に対し如何なる懲罰を科すべきかにつき地方自治法にはその細目の規定なく、また本件被告議会会議規則にもこの点に関する規定を欠くのでこの間自ら若干裁量の余地あるべきはこれを看取するに難くはないが、さりとて議会の恣意に委ねられたものでないことは前記議会に対し懲罰権を認めた趣旨に照し何等疑を容れないところである。従つてある事犯に対して科した懲罰が前記の目的達成に必要な限界を逸脱し甚しく不当であり、著しく正義に反するものあるときは違法な処分として取消を免れない。この故に本件除名議決についても前記限度を逸脱せる懲罰権の行使なりや否や本案の審理を尽して後これを判断すべく、被告の右抗弁はその理由がない。

第二、仍つて進んで本案につき按ずるに、原告が昭和二十六年四月三十日青森県議会議員に当選し爾来青森県議会議員の地位に在つたこと、昭和二十七年三月十三日、第二十九定例青森県議会(同月五日招集同月二十九日閉会)において緊急質問を為しその質問演説中「私は自由党の諸君に申上げておるのではなくて知事さんに申上げておる。私は諸君のように利権が欲しくて県会議員になつて来ておるのではない。土建業者でもなければ馬喰でもない。」と発言したこと、而して即日原告は本会議において発言を求め、「先程私の発言中私は諸君のように利権漁りでもないし、或は土方馬喰でもないと申上げました。この内諸君のようにと申上げたことは誠に不適当であつたとこういうふうに心から考えますのでこの際取消を致し謹んで皆さんの御諒解を得たいと思います」と述べたこと、同日高樋竹次郎、田中助蔵、四戸徳蔵他四名の議員が原告を懲罰に付すべしとの動議を提出し、討論採決の結果多数を以て右動議は可決せられ茲に懲罰特別委員会が設置され懲罰委員として高樋竹次郎、田中助蔵、四戸徳蔵他七名の議員が議長から指名せられたこと、同委員会は同月十四日、十五日の両日に亘つて審査を為した上委員長は同月十五日同委員会においては多数を以て原告を除名すべしとの決定があつた旨本会議に報告し、同日の本会議において右報告に基いて討論採決を行つたこと、右採決に当り議長は「投票用紙には除名を可とする議員は賛成、否とする議員は反対と御記載願います。なお投票中に白票ある場合は白票を反対の意思の表示と看做します。」と宣言したこと、採決の結果出席議員四十四名、投票総数四十四票、賛成と記載した票三十二票、可と記載した票二票、反対と記載した票九票、白票一票であつたところ、議長が原告の除名に賛成のもの三十四票、反対のもの十票である旨を告げ、原告の除名が出席議員の四分の三以上の同意を以て可決せられたと宣したことはいずれも当事者間に争がない。

よつて按ずるに原告の「私は諸君のように利権が欲しくて県会議員になつて来ておるのではない。土建業者でもなければ馬喰でもない」との発言は原告以外の議員は人格高潔ならずあたかも利権欲しさに県会議員になつて来ておるかの如き趣旨を包含するものと解されるところ、凡そ地方議会の議員たるものは議場においては厳にその言動を慎しみ、いやしくも議会の秩序を紊しその品位と権威を汚すことなかるべき責務を有するものというべく、(地方自治法第二編第六章第九節参照)従つて原告の右の如き発言は右責務に違反し、「無礼の言葉」を弄して他議員を侮辱したものであり、地方自治法第百三十二条、第百三十三条所定の懲罰事犯に該当するものと言わなければならぬ。

この点につき原告は右原告の発言は原告の真摯な質問演説中、これに対する揶揄的な野次に誘発されて不用意のうちに出でたものであるから懲罰事犯に該当しない旨主張するにつき按ずるに成立に争のない甲第二号証、証人佐藤義男、同淡谷清蔵、同杉山勝雄、同毛内喜代秋、同内山敬一の各証言及び原告本人訊問の結果を綜合すれば、原告の前記発言はその質問演説中に「県の職員組合の請負師だろう」との野次が為されこれに対し原告は「決して県庁職員組合の請負師のつもりで申上げておるのでない」と応酬したところ、更に「ほんとうだか」との野次が飛んだためこれに誘発されて不用意に為された事実を認定することができる。右認定に反する証人福士繁喜、同山谷清作、同高樋竹次郎の各証言は遽に措信し難く、又甲第二号証の青森県議会第二十九回定例会会議録第五号中には、原告の質問演説中右の如き野次があつたことの記載はないが右会議録に記載なきことは右認定を妨げるものではない、のみならず同会議録を通読すれば原告の前記本件懲罰の対象となつた言辞とその余の質問要旨とは全くその脈絡を欠き右発言が前認定の如く野次に刺激され、偶発的に出たものであることを推認するに足りる、他に右認定を覆すに足る証拠はない。しかしながら仮令前記発言が右認定の如き野次に誘発されたものとしてもそれが侮辱的言辞であることには何等の変りがない。

また原告は前記発言の後即日本会議において発言を求めさきの発言の取消を為したのであるから最早や前記発言は懲罰事犯に該当しない旨主張するけれども、議員が議場において無礼な言葉を使用し他議員を侮辱したことが懲罰事犯に該当する場合においては爾後その言葉を取消したとしても、それは単なる爾後の情状たるに止まり、懲罰事犯そのものの存否には何等の影響を及ぼすものではない。即ち原告の主張は採用の限りではない。懲罰特別委員の中に該懲罰動議の提出者が入つていることは違法であり、その委員会の審査報告に基いて為された本件除名議決も亦違法であるとの原告の主張についてはこれを認むべき成法上の根拠なく、また懲罰動議はその旨可決せられて始めてその効果が生じ、その結果設置せられる懲罰特別委員会の委員には該動議に賛成投票を為した者が加はることは固より妨げない。然らば動議の提出者も亦右委員会の委員となる事を得るものと言わなければならない。原告の右主張はその理由がない。

本件懲罰特別委員会においては原告を除名すべしとの決定が法律上存在しない旨の原告の主張について按ずるに、成立に争のない甲第五号証、証人柳沢豊吉、同高樋竹次郎、同田中助蔵、同佐藤義男、同四戸徳蔵、同田沢吉郎、同毛内豊吉、同伊藤正逸、同山谷清作、同小倉豊の各証言を綜合すれば同委員会における審査の結果全委員の意思が一致するに至らなかつたので、委員長は戒告、陳謝、出席停止、除名の四種の懲罰のいづれを科すべきかを議題として無記名投票の方法で採決を行つたところ原告を除名すべしとの投票が七票、五日間の出席停止を命ずべしとの投票が一票、懲罰相当ならずとの投票が一票であつた事実を認定することができる。右の如く全委員の意見一致を見るに至らない場合には先づ懲罰すべきか否かについて採決を行い、その結果懲罰すべしとの意見が多数を以て可決せられた後、各種の懲罰方法について多数の意見を得るに至るまで軽い懲罰から順次各別に採決を行うべきである。然らざれば懲罰すべからずとの意見を有する者は懲罰方法についての意思表示を為す機会を与へられないまゝに懲罰方法についての採決が為されるに至るからである。しかしながら本件においては投票数九票の内除名すべしとの投票が過半数の七票を占めているのであるから、右に述ぶる正当なる採決の方法によつたとしても除名すべしとの意見が多数を以て可決せられるに至るべく、従つて前記の瑕疵を以ては未だ本件除名議決を違法ならしめるものとは言い難い。本件除名議決の採決において「可」と記載した投票を賛成投票中に加えたことの適否について按ずるに、議長は「(原告)の除名を可とする議員は賛成、否とする議員は反対と御記載願います」旨宣言したのであるから「可」と記載した投票は右宣言とその表現の形式を異にするといわなければならない。然れども本件採決に付せられた議題と議長の右宣言と「可」と記載した投票とを綜合判断すれば、右投票は原告の除名を可とする趣旨の意思表示であることは容易にこれを認めることができる。議長の宣言とその表現の形式を異にする投票が議題について如何なる意思を表示したものであるかを知るに由ないものであるならば格別、本件の如く極めて容易にこれを知り得るものである限りその意思表示の有効たることは言うまでもない。原告の右主張はその理由がない。

本件除名議決の採決に際し開票立会議員桜田一義、同杉山勝雄が「可」と記載した投票を賛成投票とすることについて議長に対し異議を述べた旨の原告の主張について按ずるに、成立に争のない甲第四号証の会議録には右の如き記載なく且つこの点に関する証人杉山勝雄、同桜田一義、の証言は措信し難く他に右事実を認めるに足る証拠はない。従つて右事実を前提とし青森県議会会議規則違反を主張する原告の主張はその理由がない。これを要するに原告の前記発言は地方自治法第百三十二条第百三十三条所定の懲罰事犯に該当し、且これを対象とせる本件懲罰議決はその手続の点においてもこれを取消すべき何等の瑕疵がないものと言わなければならない。

よつて進んで本件懲罰事犯に対する除名議決にその懲罰権の限界を逸脱した違法があるかどうかにつき考うるに、前認定の如く原告は(一)前記本会議において一部議員の野次に誘発されて不用意且偶発的に、(二)前記の如き趣旨内容の発言を為したが、(三)即日本会議において自ら進んで右発言の一部を取消し、同僚議員の諒解を得たい旨釈明したことが明かであり、これ等各事実を綜合判断すればこれに対し敢えて原告の除名議決を須えずとも他の方法により極めて容易に被告議会の秩序を維持し、その品位と権威を保持し得たものといわなければならない。

然るにこれに臨むに除名の極刑を以つてした被告議会の本件議決は明かに前叙議会の議員に対する懲罰権の限度を遙かに逸脱し、著しく正義に反し、違法な処分として到底その取消を免れないものといわなければならない。

被告は本件除名議決が違法なものとして取消されるにおいては、会期不継続の原則及び一事不再議の原則によつて青森県議会は最早や原告に対し除名以外の如何なる懲罰をも科し得ざるに至り、青森県議会の原告に対する本件懲罰事犯についての懲罰権を喪失せしめる結果となるのであるから、裁判所は之を取消し得ない旨主張するにつき按ずるに、本件除名議決を違法なものとして取消すときは青森県議会は最早や原告に対し如何なる懲罰をも科し得ざるに至ることは被告主張の通りであるけれども(本件第二十九回定例県議会は昭和二十七年七月二十九日を以て閉会した)それは青森県議会が違法な懲罰議決を為し、これを違法ならずとして他に適法な懲罰権の行使をすることなく会期を終らせたことの結果に外ならない謂はゞ自業自得であり、その為に違法な処分であるに拘らず裁判所が之を取消し得ないと為すことは理由なきこと明らかである。

原告の本訴請求は以上により結局その理由があるので之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤健作 中田早苗 野原文吉)

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